📌 サマリ
アイシン様が人的資本経営を軸に、社外との「越境学習」を通じていかに組織文化を刷新しようとしているか。従来の「製造業ロジック」から「ユーザーの感情」への転換、そして自律的なプロ人材育成の最前線に迫ります。
導入
弊社、株式会社ヌエボラボがメンターを務めさせて頂いております「東海Innovator's Bus」にご参加頂きました、愛知県に本社をおく株式会社アイシン様にインタビューをさせて頂きました。 「東海Innovator's Bus」は、2ヶ月間という短期集中型の新規事業創造プログラムです。企業、個人、自治体職員など様々な立場の参加者が集まり、社会課題達成に向けたイノベーティブな事業プランを開発します。
1. 人的資本経営の最前線。「個」の力を解き放つプロ人材の育成へ
――「東海Innovator's Bus」へ継続的に参加されていますが、その背景にはどのような狙いがあるのでしょうか。
現在、アイシンではトップダウンの方針として「人的資本経営」を掲げています。その中核にあるのが「プロ人材」という概念です。組織の歯車になるのではなく、一人ひとりが自分の持ち場で何をなすべきかを考え、自発的に行動する。そうした人材を一人でも多く増やしたいという想いがあります。
この取り組みが始まったのは3年前。既存事業を回すだけではなく、自ら課題を見つけ行動できる人材を増やすためには、一度社外へ出て他流試合をする必要がある。新規事業創出を単なるビジネス開発ではなく、「越境学習」という人材育成の手段として位置づけています。
2. 社内では起きない「摩擦」こそが価値。越境で痛感した同質性の壁
――実際にご自身も参加されて、どのような変化を感じましたか?
最も貴重な体験は「チームがうまく噛み合わなかったこと」です。これは社内ではまず起こり得ない摩擦でした。 社内であれば、企業文化や背景が似通っているため、阿吽の呼吸で進むこともあります。しかし、年齢もバックグラウンドも異なる社外のメンバーと活動すると、意見が通らない、議論が噛み合わないという壁に直面します。 外の世界に出たからこそ、逆説的に「社内の同質性」に気づくことができました。
また、今年の参加者を見て驚いたのは、ベテラン層の意欲です。新規事業=若手というイメージがありましたが、多くのベテラン社員が手を挙げてくれました。「今からでも新しいことに挑戦したい」という熱量は、組織にとって大きな発見でした。
3. 誰のためのイノベーションか。「会社の都合」を捨て、ユーザーの感情に立ち返る
――プログラム中のメンターとの関わりについて、特に印象に残っている学びはありますか?
「さっさと次に行こうよ」という言葉です。 当時の私は、社内でイノベーターズバスの成果を証明したいがために、当初のアイデアに固執していました。「会社に報告できる成果」を作ることが目的化してしまい、本来見るべき「ユーザーの課題」がおろそかになっていたのです。
「その案がダメなら解散するか」という局面で、自分が守ろうとしていたのはユーザーではなく、自分の体面だったと痛感させられました。 また、製造業のエンジニア特有の思考の癖も壁になりました。私たちはどうしても「なぜ?(Why)」と要因分析をして問題を解決しようとします。 しかし、イノベーションに必要なのは「ユーザーは何をしたいのか」という欲求への水平思考です。
例えば「在宅勤務がしたい」という声に対し、「なぜ?」と効率を追求するのではなく、その奥にある「娘と手をつないで登園する時間を大切にしたい」という感情に気づけるか。ロジックではなく、エモーション(感情)に立ち返る難しさと重要性を学びました。
4. 自前主義からの脱却。「知っている」を「できる」に変え、社外と共創する未来へ
――最後に、この活動を通じて見えた今後の展望をお聞かせください。
痛感したのは「『知っている』と『できる』は違う」ということです。 ペルソナや課題設定といった知識は持っていましたが、それを多様な他者と共に実践することは全く別の次元でした。
そして、外とつながることの重要性です。アイシンはこれまで、高い技術力ゆえに「自前主義」で完結しようとする傾向がありました。しかし、自分たちにできないことは、できる人と一緒にやればいい。逆に、私たちの製造力・生産力を誰かのために提供することもできるはずです。
「アイシンに相談すれば、何かが生まれる」。 そう思ってもらえるような共創のハブを社内に作りたいと考えています。全てを自分たちだけで背負うのではなく、もっとオープンに、社会とつながりながら新しい価値を生み出していきたいですね。
🖋 インタビュアー・プロフィール
寺澤 のぞみ(Nozomi Terazawa) 株式会社ヌエボラボ 代表取締役。 新規事業開発・組織開発コンサルタント。東海地域の製造業や介護現場を中心に、AI活用や成人発達理論を用いた「自走型組織」への変革を支援。企業、自治体、個人が混ざり合う共創の場「東海Innovator's Bus」のメンターとしても活動中。 https://nuevolabteam.com/
