「社長の言うことは正論ですよ。でもね、現場はそんなに甘くないんです」
浜松・東海の製造現場で、変革を志す経営者が最も耳にする、そして最も心を削られる言葉かもしれません。ホンダやヤマハといった巨大OEMの基準を知り、最新の経営ロジック(正論)を携えて戻ってきた3代目社長。対して、油にまみれ、長年の勘と経験で会社を守り抜いてきたベテラン工長。
この両者の間に流れる「冷戦」は、放っておけば組織を内側から腐食させます。しかし、この衝突の正体を解き明かせば、ベテランの頑固さは「未来を切り拓く最強の推進力」へと変えることができるのです。
【目次】
- 1. なぜ「正しいはずの言葉」が、現場で弾かれるのか
- 2. 成人発達理論で解く、社長と現場の『OSの不一致』
- 3. 相手を「変える」のではなく、相手の「誇り」を燃料にする
- 4. ベテランの心を動かす『3つの問いかけ』
- 5. 「正論の勝利」を手放し、「組織の勝利」を掴む決意
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1. なぜ「正しいはずの言葉」が、現場で弾かれるのか
経営者が語るビジョンは、解像度が高く、論理的で、一点の曇りもないかもしれません。しかし、ベテラン工長の目には、それが「自分たちが積み上げてきた歴史を否定する、空虚な言葉」として映っていることがあります。
彼らにとっての正義は、目の前の機械を止めないこと、納期を守ること、そして「職人の勘」を維持すること。経営者の「正論」が、彼らの「聖域」に土足で踏み込むような響きを持ったとき、現場は音を立てずにシャッターを下ろします。これはコミュニケーションスキルの問題ではなく、見ている世界そのものが違うのです。
2. 成人発達理論で解く、社長と現場の『OSの不一致』
この断絶を読み解く鍵が、「成人発達理論」です。
- 経営者の視座(自己主導型):自らの価値体系を持ち、リスクを取って変革を主導する。
- 現場の視座(環境順応型):既存のルールや「会社としての正解」を忠実に守り、和を重んじる。
経営者が「自走せよ」と求めるのは、最新のソフトを動かそうとしている状態。対して現場は、堅実で安定した「旧来のOS」で動いています。このOSの差を無視して正論をぶつけても、エラーメッセージ(反発)が返ってくるのは当然の結果と言えます。
3. 相手を「変える」のではなく、相手の「誇り」を燃料にする
変革に失敗する経営者が陥りやすい罠は、ベテランを「古い価値観の人」と決めつけ、説得して変えようとすることです。しかし、成人発達理論が教えるのは「相手の器を認める」こと。
ベテラン工長が持つ「頑固さ」は、実は「会社と技術への深い愛情とプライド」の裏返しです。そのプライドを否定して排除するのではなく、新しいビジョンの中に「彼らの専門性がどうしても必要だ」という居場所を作ること。経営者の仕事は、彼らの誇りを未来への燃料として再定義することにあります。
4. ベテランの心を動かす『3つの問いかけ』
冷戦を終わらせ、最高のバディになるための対話には、コツがあります。
- 「感謝の具体化」:「いつも助かる」ではなく、「あの時の、あの調整はあなたにしかできなかった」と、彼らの暗黙知を具体的に承認する。
- 「過去と未来の接続」:「今のやり方は古い」ではなく、「経営者が守ってきたこの技術を、次のEV時代にどう活かせばいいか知恵を貸してほしい」と頼る。
- 「共通の敵の設定」:社長 vs 現場ではなく、共に「変化しないことで訪れる危機」という外敵を直視する対話を持つ。
5. 「正論の勝利」を手放し、「組織の勝利」を掴む決意
経営者が一人の人間として、「自分の正しさを証明したい」という欲求を手放したとき、組織は動き始めます。
ベテラン工長は、敵ではありません。彼らは、経営者が描く未来を現実のものにするための、唯一無二のパートナーです。彼らの持つ「泥臭い知恵」と、経営者の持つ「高い視座」がダイアログ(対話)を通じて溶け合ったとき、浜松の製造現場は比類なき強さを発揮します。
一歩踏み出し、彼らの「誇り」の正体を聞くことから始めてみませんか。
組織内の人間関係の「もつれ」を解き、一人ひとりの誇りを変革の原動力に変えたいとお考えの皆様へ。 Nuevo Labでは、成人発達理論に基づいた深い対話を通じて、組織の「OS塗り替え」を支援しています。
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執筆者プロフィール
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
人事系コンサルティングファームを経て独立。静岡・浜松を中心に「3代目社長」と「現場」の架け橋として、数多くの組織変革を伴走支援。成人発達理論をベースにした、生々しくも愛のある対話の場づくりを得意とする。現場の油の匂いと、経営の孤独の両方を知るパートナーとして活動中。






