東海の製造業では、図面どおりにつくる力は世界トップクラスなのに、「次の10年をつくるリーダー」が足りていません。
正解を早く出す力よりも、「まだ正解がない領域で問いを立て続ける力」が求められているのに、現場の育成設計は昔のまま止まっているのが実情です。
このコラムでは、愛知・静岡の現場で見えてきた“指示待ちリーダー”量産のカラクリと、それを乗り越えるための具体的な育成のOSを書いていきます。


【目次】


導入:東海の現場で起きている“静かな危機”

愛知・静岡・岐阜の工業団地を回っていると、昼休みの食堂や現場横の小さな会議室で、似たような会話を耳にします。

「班長候補はいるんだけど、自分の言葉で話せる人が少ないんだよね
「真面目で優秀だけど、“会社としてはどうすべきか”ばかり気にしてしまう
「DXプロジェクトを任せても、最後は上の判断待ちになってしまう」

東海の製造業は、長年「品質」「納期」「安全」を最優先にやってきました。
その真面目さと愚直さがこの地域の強さであり、日本のモノづくりを支えてきたのは間違いありません。

しかし、変化の激しい今の時代、その強みが**「指示待ちリーダーの量産」にすり替わってしまう**危うさも抱えています。
ここに気づかないまま、「管理職研修を1本追加しておこう」「DX研修を入れておこう」と“アプリ”だけを足しても、OSは変わりません。


1. 指示待ちリーダーは「真面目さ」が生んだ副作用

東海の次世代リーダー候補たちは、決してやる気がないわけでも、能力が低いわけでもありません。
むしろ、こんな特徴を持っていることが多いです。

  • 上からの指示をきちんと守る
  • ルールや手順を崩さない
  • 報・連・相をしっかり行う

一見すると理想的なリーダー像に見えますが、背景にはこんなOS(前提)が隠れています。

  • 失敗してはいけない。迷惑をかけてはいけない
  • 自分の考えより、上司の期待に合わせるのが安全
  • 波風を立てないのが“いいリーダー”だ

このOSのまま「もっと主体的に」「もっと提案を」と言われても、
頭では理解しつつも、身体はブレーキを踏み続けてしまいます。

東海の現場で私たちが何度も見てきたのは、

「やりたいことはあるけれど、**“会社としてどうなんでしょうか…”**と自分で自分の炎を消してしまうリーダー」

の姿です。
これは個人の性格の問題ではなく、組織のメッセージと対話の設計の問題です。


2. 次世代リーダーに本当に必要なのは「問いを立て続ける力」

では、これからの東海製造業に必要な次世代リーダーとは、どんな人でしょうか。

私たちは、こう定義しています。

「正解を知っている人」ではなく、
 現場と一緒に“問いを立て続けられる人」

例えば、こんな問いを日常的に投げかけられる人です。

  • 「このラインの中で、一番ボトルネックになっているのは本当にここかな?
  • 「この新入社員が伸びるには、どんな経験を一緒にデザインすべきだろう?
  • 「このDXツールを入れることで、現場の意思決定はどう変わるべきだろう?

成人発達理論の観点から見ると、
次世代リーダーには「自分の正しさ」に閉じるのではなく、複数の視点を持ち、問いを持ち続けられる器が求められます。

  • 経営の視点
  • 現場の視点
  • 顧客・地域の視点

これらを往復しながら、「何が本当に大事か?」を言語化し続ける人こそが、東海の次の10年をつくるリーダーです。


3. 東海製造業で実践している「自走リーダー育成」3つの仕掛け

Nuevo Labが愛知・静岡の製造業と一緒に取り組んでいる、具体的な仕掛けを3つ紹介します。

3-1. 経営と現場をつなぐ「問いのOS」を共有する

まずやるのは、立派なコンピテンシー表をつくることではありません。
経営者・人事・現場リーダーで、**「どんな問いを立てるリーダーを増やしたいか」**を言葉にしていきます。

例:

  • 「売上ではなく、お客さまの“変化”を指標として語れるか?
  • 「作業指示ではなく、チームに“意味”を渡せているか?
  • 「問題の犯人探しではなく、構造とOSに目を向けられているか?

この“問いのOS”が共有されると、評価や1on1の会話も自然と変わっていきます。

3-2. 現場越境プログラムで「安全に失敗できる場」をつくる

指示待ちOSを書き換えるには、普段とは違う文脈での実践体験が欠かせません。

東海では、こんなプログラムを一緒に設計してきました。

  • 他社・他部署と混成チームをつくり、地域課題をテーマに小さなプロジェクトを動かす
  • 上司が「評価者」ではなく「学びの伴走者」として同席し、一緒に振り返る
  • 成果よりも、「どんな前提が揺れたか」「どんな問いが生まれたか」を言語化する

ここで多くのリーダーが口にするのは、

「会社の中だけにいると、“正解を出さなきゃ”と勝手に肩に力が入っていたことに気づいた」

という言葉です。
この“気づき”こそが、次の日からの現場の対話を変えていきます。

3-3. 研修後90日間の「問いベース伴走」

単発の研修でOSは変わりません。
そこで私たちは、研修の後に90日間のオンライン・対話伴走をセットにしています。

  • 月1回:小グループでの振り返りセッション
  • 毎週:Slack等で「今週の問い」と「小さな実験」の共有
  • 上司向け:リーダーの挑戦を支えるための1on1ガイド提供

重要なのは、「結果が出たかどうか」ではなく、

  • どんな問いを持ち続けたのか
  • どんな関わり方を試してみたのか
  • そこから何を学んだのか

を一緒に見ていくこと。
こうして**“問いを立て続けるリーダー”の行動習慣**が、じわじわと組織に根付いていきます。


4. 経営者・人事が明日から変えられる一歩

ここまで読んでくださった東海の経営者・人事のみなさんに、
明日からすぐにできる小さな一歩を3つだけ提案させてください。

  1. 会議の最初の5分を「問いの共有」に使う

    • 今日のアジェンダに入る前に、「今、私たちが本当に解きたい問いは何か?」を1つ出してから始めてみてください。
  2. 次世代リーダー候補に「正解を求める質問」を減らす

    • 「どうすればいい?」ではなく、「あなたはどう見ている?」から始まる問いを1つ増やしてみてください。
  3. 研修企画のゴールを「スキル習得」ではなく「問いのOS更新」に置く

    • 企画書の1行目を、「この研修で、どんな問いを持つリーダーを増やしたいか」から書き始めてみてください。

東海には、まだまだ表に出ていない「静かなリーダー候補」がたくさん眠っています。
その火種に問いと対話の風を送り込めるかどうかが、これからの10年を分けると、私たちは本気で考えています。


執筆者プロフィール

寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役

新卒入社した企業で、リーマンショックを背景とした入社半年での希望退職を経験し、「組織が崩れる瞬間の無力感」と向き合う。
その後、コンサルティング会社や人材開発会社で累計数百社の組織変革・人材育成プロジェクトに携わり、**「スキル研修だけでは現場は変わらない」**ことを痛感。

2019年に東海エリアに特化した伴走型ファーム「Nuevo Lab」を設立。
愛知・静岡の製造業・IT企業を中心に、組織OSの刷新×対話型リーダー育成をテーマに、越境学習プログラムや伴走型マネジメント研修、現場自律度診断などを提供している。
モットーは「東海の誠実さに、自律の動力を。」。