【古参社員の反発とは】 事業承継後に古参社員が新社長に反発するのは、「変化への抵抗」ではなく「不安への防衛反応」である。彼らが守ろうとしているのは旧来のやり方ではなく、「この会社での自分の存在意義」だ。


「うちの古参社員が、私の言うことを聞かないんです」

静岡の製造業の二代目社長が、初めての面談でそう打ち明けた。先代から30年以上働いてきたベテラン社員たちが、新しい施策を出すたびに「それは違う」「前はこうだった」と抵抗してくる。

このパターンは、東海の製造業の事業承継現場でほぼ必ず起きる。

しかし私が100社以上の現場を歩いてきて気づいたことがある。古参社員の反発は、変化を嫌っているのではない。


反発の本当の正体

古参社員が反発する時、その根っこには必ず「不安」がある。

具体的には、こういう不安だ。

「自分はこの会社でまだ必要とされているのか」

「新しい社長の下で、自分の経験や知識は価値があるのか」

「これまで自分が守ってきたものは、無駄になるのか」

これを「変化への抵抗」として処理してしまうと、「なぜ変えられないんだ」「頭が古い」という評価で終わる。でも本質は、存在意義の危機への防衛反応なのだ。

だから、新しい施策を「正しいから」という論理で押し込もうとするほど、反発は強くなる。正論で人の不安は消えない。


二代目が陥りやすい3つの間違い

① 「わかってもらえれば変わる」という思い込み

「説明すれば理解してくれるはずだ」と、会議で丁寧にプレゼンを繰り返す。でも古参社員が動かないのは、内容を理解していないからではない。「この社長に任せて大丈夫か」がまだ信頼されていないからだ。

論理より先に、関係がある。

② 「先代を全否定しない」ための過度な配慮

「先代のやり方を尊重しながら変える」という姿勢は正しい。しかし「尊重」が「現状維持」にすり替わると、何も変えられなくなる。古参社員は社長の「本気度」を見ている。

曖昧な態度が、かえって不安を増幅させる。

③ 「全員を納得させてから動く」という罠

全員合意を目指すと、一人の反発者が全体を止める。事業承継の変革は、全員の賛成を待っていては始まらない。最初に動く一人を見つけることの方が、はるかに重要だ。


最初にすべきたった1つのこと

100社の現場から導き出した答えは、シンプルだ。

「古参社員の経験を、未来に接続する」

具体的には、こういうことだ。

「○○さんが30年かけて築いてきた現場の知識を、次の世代に引き継ぐ仕組みを作りたい。一緒に考えてほしい」

この一言で、古参社員の立場が「抵抗勢力」から「変革の共著者」に変わる。

彼らが守りたかったのは「過去のやり方」ではなく、「自分がこの会社に貢献してきたという事実」だ。その事実を未来に繋げてもらえると分かった時、人は動き始める。


「対立」から「共著」へ

愛知のある部品メーカーの二代目社長は、承継後に古参のベテラン社員と真正面からぶつかり続けた。変えようとするたびに反発され、半年で疲弊していた。

転機は、そのベテランに「うちの技術の何が一番失ってはいけないか、教えてほしい」と聞いた時だった。

3時間、ベテランが語り続けた。その内容を社長が「会社の憲法」として文書化した。

「社長が俺の話を聞いてくれた」——その体験が、関係を変えた。

今では、そのベテランが新しい施策の最大の推進者になっている。


反発の向こうに、本音がある。本音に耳を傾けることが、事業承継後の組織変革の第一歩だ。

あなたの会社の古参社員は、何を守ろうとしているのだろうか。


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執筆者プロフィール

寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役

静岡・愛知を中心とした東海エリアで100社以上の組織開発・事業承継支援を実施。「古参社員が動かない」という相談を毎月複数件受ける中で、問題の本質は「反発」ではなく「不安への防衛反応」にあると確信。二代目社長の孤独に寄り添いながら、世代交代後の組織OS刷新を伴走支援している。