「もう俺も60代だ。でも、会社を任せられる人間がいない」
ある静岡の製造業の経営者が、打ち合わせの終わりにぽつりと言った言葉だ。
売上も利益も安定している。技術力も高い。でも、「次の経営者」がいない。
この悩みを持つ経営者が、東海エリアで急増している。
「幹部候補が育たない」は、本当に人材の問題か
よく聞く話がある。
「うちには幹部になれる人材がいないんです」
でも、本当にそうだろうか。
100社以上の現場を歩いてきた経験から言うと、幹部候補がいないのではなく、幹部候補が育てる環境がないことがほとんどだ。
優秀な若手・中堅社員はいる。でも、なぜかその人たちが「次のステージ」に上がってこない。
その理由を探ると、決まって3つのパターンが出てくる。
パターン①「経営者が手を離せていない」
幹部候補が育たない会社の多くで、経営者が「すべての意思決定の中心」になっている。
現場で問題が起きると、社員は判断を社長に持ってくる。社長がその場で答えを出す。社員は「言われた通りにやる」ことを学ぶ。
この繰り返しが10年続くと、「社長がいないと何も決められない組織」ができあがる。
本人は「頼りにされている」と感じているかもしれない。でも実際は、社員の判断力と主体性を奪い続けている。
幹部候補が育つためには、まず経営者が意図的に「判断を委ねる場面」を作ることが必要だ。
パターン②「幹部候補に「経営の経験」をさせていない」
技術者として優秀な人を管理職に昇格させる。製造業でよくある話だ。
でも、技術の優秀さと、人・お金・戦略を動かす経営センスは、まったく別物だ。
「幹部候補に経営を学ばせる」というと、セミナーや研修を思い浮かべる経営者が多い。でも本当に必要なのは、リアルな経営判断を経験することだ。
小さくてもいい。「この新しい取り組みをあなたに任せる。予算はこれだけ。失敗してもいい、でも自分で考えて動いてみてほしい」——そう言える場面を作れているか。
経営は、やってみないとわからない。経験なしに幹部は育たない。
パターン③「幹部になることが「割に合わない」と思われている」
これは経営者が一番気づきにくいパターンだ。
幹部候補と目されている社員が、こっそり思っていることがある。
「社長を見ていると、幹部になっても苦労ばかりで、全然いいことなさそう」
経営者は孤独に苦しみながら仕事をしている。そのしんどさが現場に伝わってしまっていると、「あの席には座りたくない」という心理が生まれる。
幹部が「憧れのポジション」になっていないと、誰も本気でそこを目指さない。
実際に幹部候補が育った組織がやっていた3つのこと
① 「失敗の権限」を渡す
愛知のある部品メーカーでは、30代の中堅社員に「新規顧客開拓プロジェクト」のリーダーを任せた。予算は小さく、失敗しても会社が傾くような案件ではない。でも、社長は一切口を出さなかった。
半年後、そのプロジェクトは思ったような成果は出なかった。でも、そのリーダーは「自分で考えて動く」ことを体で覚えた。その経験が、3年後の本物の幹部登用につながった。
失敗を許す文化のない組織では、挑戦する人材は育たない。
② 「経営の景色」を意図的に見せる
月に一度、幹部候補を経営会議に同席させる。売上、利益、課題、葛藤——経営者が何を見て、何を考えているか。その景色を見せるだけで、人の視座は変わる。
「会社の全体像が見えた時、初めて自分の仕事の意味が変わった」——そう言った30代のリーダーがいた。
③ 「社長の想いを言語化して共有する」
「この会社を次世代に残したい」「この地域のものづくりを守りたい」——そういう想いを、経営者がちゃんと言葉にして伝えているか。
想いを共有されていない幹部候補は、「なんとなく頑張る」しかできない。でも、想いが伝わると「この人の後を継ぎたい」という気持ちが生まれる。
後継者は育てるものではなく、共に想いを語る中で生まれてくる。
「幹部不在」は組織の危機信号
幹部候補が育たないことは、経営者の問題でも、社員の問題でもない。
組織のOSが「人を育てる設計」になっていない、というシステムの問題だ。
今からでも遅くはない。まず一人、「この人に経営を経験させよう」と思える社員に、小さな権限と経験の場を渡すことから始めてほしい。
幹部育成についての相談は、30分の無料セッションで承ります。
👉 管理職が何度言っても変わらない──本当の原因と東海の現場で効いた3つのアプローチ
👉 レバレッジポイントとは│7Sで見つける「組織変革の急所」
👉 二代目社長と古参社員が「最高のバディ」になるための対話術
執筆者プロフィール
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
静岡・東海エリアを中心に100社以上の現場伴走を完遂。「幹部候補がいない」という相談を毎月複数件受ける中で、問題の本質は人材ではなく「人が育つ組織の設計」にあると確信。経営者の孤独に寄り添いながら、次世代リーダーが自然と育つ組織づくりの伴走支援を展開中。







