「古参社員が、私のことを社長と思っていないんです」

事業承継後の二代目経営者から、この言葉を聞くたびに胸が痛くなる。

20年以上その会社を支えてきたベテラン社員。先代社長への忠誠心は本物だ。でもその忠誠心が、新しいリーダーへの抵抗に変わってしまうことがある。

「前の社長はこうだった」「そのやり方は現場を知らない」——こういった言葉が飛んでくる中で、二代目社長は孤独に戦い続ける。

でも、本当に古参社員は「敵」なのだろうか。


古参社員が「動かない」本当の理由

東海の製造業で事業承継の現場を歩いていると、古参社員の反発には共通した「正体」があることに気づく。

それは「不安」だ。

変化への不安。自分の価値が失われる不安。長年築いてきた関係性が壊れる不安。

「前の社長のやり方で20年間やってきた。それが正しいと信じてきた。今さら変えろというのは、20年間の自分を否定されているような気がする」

ある工場長が、こっそりと私に打ち明けてくれた言葉だ。

表面には「反発」が出ているが、その奥には「承認されたい」「自分の経験を認めてほしい」という切実な思いがある。

この正体を知らないまま、「なぜ変わらないんだ」と押し込もうとすると、関係はさらに悪化する。


二代目社長がやりがちな3つの失敗

① 「正論で押し込もうとする」

「これからはこのやり方でやる」と論理的に説明する。確かに正しい。でも正論は人の心を動かさない。古参社員は内心「それが正しいのはわかっている。でも…」と思っている。「でも」の先を解決しないと、人は動かない。

② 「先代と比較されることを恐れて、先代を否定する」

先代のやり方を変えようとするとき、無意識に先代を否定してしまうことがある。しかし古参社員にとって先代は「自分たちを育ててくれた人」だ。先代を否定することは、自分たちの歴史を否定することに聞こえる。

③ 「早く結果を出そうと焦る」

承継後の1〜2年、経営者は結果を急ぐ。でも組織の信頼関係は、時間をかけてしか築けない。焦りが透けて見えると、古参社員はさらに距離を置く。


「最高のバディ」になるための3ステップ

では、どうすれば古参社員と信頼関係を作れるか。実際に機能したアプローチを紹介する。

ステップ1:まず「聞く」から始める

古参社員に変化を求める前に、徹底的に「聞く」フェーズを設ける。

「この会社の、何を守っていきたいですか」「あなたが誇りに思う現場の強みはどこですか」「先代から受け継いできたもので、絶対に失いたくないものは何ですか」

こういった問いを、個別に、時間をかけて聞いていく。

これをやると、二代目経営者は必ず驚く。古参社員たちが、会社のことを本当に深く愛していることに気づくからだ。反発は、その裏返しだったと。

ステップ2:先代を「超える」のではなく「受け継ぐ」という姿勢を示す

「私は前社長のやり方を変えたいのではなく、受け継ぎながら進化させたい」

この言葉を、行動で示す。

先代が大切にしていた価値観を明確に言語化して、「これは変えない。これをベースに、新しい時代に合わせた形を一緒に作りたい」と伝える。

変化と継続のバランスを示すことで、古参社員は「否定されているのではなく、次のステージに招かれている」と感じ始める。

ステップ3:古参社員を「語り部」として活用する

古参社員の最大の価値は、現場の暗黙知と会社の歴史だ。

この知識を「邪魔もの」として扱うのではなく、「会社の資産」として可視化する。

たとえば、若手社員への技術伝承の場で古参社員に「語り部」として話してもらう。「あの時、こういう判断をした。なぜなら…」という経験談は、マニュアルには書けない生きた知識だ。

古参社員が「自分の経験が会社の未来に役立っている」と感じると、変化への抵抗は急速に和らいでいく。


「敵」はいなかった

ある二代目経営者が、事業承継から2年後にこう言った。

「あの頃一番怖かった工場長が、今は一番の理解者です。彼がいなければ、変革はできませんでした」

古参社員は敵ではない。会社を誰よりも愛しているからこそ、変化を恐れている。

その愛情を、変革のエネルギーに変えること。それが二代目社長にしかできない、承継後の最大の仕事だ。


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執筆者プロフィール

寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役

静岡・東海エリアを中心に100社以上の現場伴走を完遂。二代目社長×古参社員の摩擦は「最も多い相談テーマ」の一つ。正論でも力でもなく、対話によって信頼を再構築するプロセスを専門とする。事業承継後に「組織が自走し始める」瞬間を、伴走者として何度も目撃してきた。