【要約リード】 二代目社長と古参社員の摩擦は「人の問題」ではなく「OSの問題」だ。どちらが正しいかではなく、どちらの「前提」が組織を動かしているかを問い直すことが、唯一の突破口になる。
「先代からいる人が、変わろうとしないんです」
東海の製造業でこの言葉を聞かない月はない。二代目・三代目として会社を継いだ経営者が、ほぼ必ずぶつかる壁だ。新しい仕組みを入れようとすると空気が固まる。数字を持ち出すと「うちはそういう会社じゃない」と言われる。変えたいのに、変えられない。
一方で古参社員にも、言葉にならない思いがある。「この会社のことを誰より知っているのは自分だ」「先代が大事にしてきたものを、簡単に壊してほしくない」。どちらの言い分も、間違っていない。
だからこそ、この摩擦はこじれる。
「老害」でも「抵抗勢力」でもない
よくある解釈は「古参社員が変化を嫌がっている」というものだ。しかしそれは半分しか正しくない。
私が現場で見てきた古参社員は、変化そのものを嫌っているわけではない。彼らが怖いのは「自分たちがここまで守ってきたものが、軽く扱われること」だ。
創業者の苦労を一番近くで見てきた。客先に頭を下げた経験がある。倒産しかけた時に踏ん張った記憶がある。その歴史の重みの上に、今の「自分の価値」がある。そこに新しい経営者が「これからはこうする」と旗を立てると、彼らには「お前たちのやってきたことは古い」と聞こえてしまう。
これは人間として自然な反応だ。「老害」でも「抵抗勢力」でもない。
二代目がはまりやすい2つの罠
問題は、二代目経営者が無意識にはまる2つの罠にある。
罠①:正論で説得しようとする
「データはこうなっている」「業界のトレンドはこうだ」「このままでは会社が危ない」。全部、正しい。しかし正論は人を動かさない。人は論理ではなく、「自分がどう扱われるか」で動く。
古参社員に必要なのは「あなたが大事にしてきたものを、私は理解している」という承認だ。その前提なしに改革を進めると、情報は届いても心は動かない。
罠②:スピードを優先する
二代目が焦るのには理由がある。「早く成果を出して、自分の経営を証明したい」「先代と比べられるのが怖い」。この焦りがスピードへの執着を生む。しかし組織の変化には「腐葉土をつくる時間」が必要だ。急いで土を耕さずに種だけ蒔いても、根が張らない。
「どちらが正しいか」ではなく「OSを書き換える」
私がこの摩擦に向き合う時、最初に確認することがある。「この組織の『前提』は何か」だ。
たとえば「報告は上から順番に」「現場が口を出すな」「先代がこう言っていた」──これらは明文化されていないが、組織の中に空気として漂っているルールだ。私はこれを「組織OS」と呼んでいる。
二代目と古参社員が対立する時、実は2つの異なるOSがぶつかっている。どちらかを「インストール」しようとすると、もう一方が「エラー」を起こす。
突破口は「どちらのOSが正しいか」を争うことではない。「これから私たちが向かう場所に、どんなOSが必要か」を対話で決めることだ。
そのためには、まず二代目が「先代の時代に、この会社は何を大事にしてきたか」を古参社員から教わる場をつくること。これが想像以上に効く。「あなたの経験を私は必要としている」というメッセージが、最初の壁を溶かす。
静岡の製造業で起きた転換点
ある二代目社長は、就任から2年間、幹部会議で数字とロジックで押し続けた。会議は静まり返り、終わると廊下で「また新しいことを言い出した」という声が流れていた。
ターニングポイントは、私との対話の中で彼が気づいた一言だった。「私、あの人たちに『先代を超えたい』って伝わってたかもしれません」。
次の幹部会議で、社長は数字を持ち込まなかった。「この会社が20年間、どうやって生き残ってきたか、教えてもらいたいんです」と言った。古参の工場長が、初めて30分しゃべった。会議の空気が変わったのを、その場にいた全員が感じた。
OSの書き換えは、こういう小さな転換から始まる。
二代目経営者として、あなたはまず何を「引き継ぎたいか」を、古参社員に語ったことがあるだろうか。
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執筆者プロフィール
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
静岡・東海エリアで100社以上の組織開発を支援。二代目・三代目経営者の事業承継後の組織再構築を多数経験。「組織OS」という独自フレームワークで、見えないブレーキを外す伴走型コンサルティングを行っている。





