【要約リード】 「幹部候補がいない」と嘆く前に確認してほしいことがある。その問題は「人材の不足」ではなく「育て方の地図がない」という組織側の問題である可能性が高い。
「うちには幹部になれる人間がいないんです」
静岡や愛知の中小企業の社長から、この言葉を聞く機会が後を絶たない。月に複数件、同じ相談が届く。
でも私はそのたびに、少しだけ立ち止まって聞き返すようにしている。
「社長、その方たちは、どんなふうに育てられてきましたか?」
その質問に、すぐ答えられる経営者は意外と少ない。
「いない」のではなく「見えていない」
組織開発の現場に入ると、ほぼ例外なく気づくことがある。
幹部候補と呼べる素質を持った社員が、社内にいることが多い。
ただ、その人は「うまく発揮できていない」状態にある。
理由はシンプルだ。組織に「この道を歩めば幹部になれる」という地図がないから。
ゴールが見えない道を全力で走れる人間はいない。どこに向かって成長すればいいかわからないまま、現場の仕事をこなし続け、気づいたら「ベテランだけど指示待ち」という状態になっている。
これは本人の問題ではなく、組織の問題だ。
育て方の地図とは何か
「育て方の地図」というのは、単なるキャリアパスシートのことではない。
私が言いたいのは、「この人が幹部になるために、今何を経験させるべきか」を経営者が具体的にイメージできているか、ということだ。
東海の製造業で多く見るのは、こういう光景だ。
優秀なベテラン社員がいる。でも社長はその人を「現場から外せない」と言う。現場を支えてくれているから、動かすことへの罪悪感がある。そして気づいたら10年が経過している。
その間、その人は「幹部になるための経験」をほとんど積んでいない。
人事・採用・予算管理・他部門との調整・経営者との対話。そういった経験が、幹部を幹部にする。現場を上手くこなすことと、幹部として組織を動かすことは、まったく別のスキルセットだからだ。
「成人発達理論」から見えること
ロバート・キーガンの成人発達理論に、こんな考え方がある。
大人の知性は年齢で育つのではなく、「経験の質」によって育つ。
ここで言う「質」とは、自分の常識が揺さぶられる体験のことだ。自分一人では解決できない問いに直面し、他者との対話の中で視点が広がっていく。そういうプロセスが人を発達させる。
逆に言えば、どれだけ長く働いていても、同じ質の仕事を繰り返しているだけでは、人は発達しない。
幹部候補の育成において「経験させる」とは、単に仕事量を増やすことではない。**「その人の認知を揺さぶるような役割と問いを与えること」**だ。
これが、育て方の地図のなかに入っている組織と、ない組織の決定的な差になる。
では、何から始めるか
私が東海の中小企業でよく提案するのは、まず「候補者の棚卸し」ではなく「経営者自身の問いの棚卸し」から始めることだ。
- この会社の5年後に、何を担える幹部が必要か
- 今いる社員の中で、その素質の「原石」がいるとしたら誰か
- その人に今欠けていて、次の1年で経験させられることは何か
この問いに答えを出せてはじめて、育て方の地図が描ける。
順番を間違えると「候補がいない→外部採用→でも定着しない」というループに入る。東海の製造業でよく見るパターンだ。
育てることは時間がかかる。でも「地図のない育成」は、もっと時間がかかる。
あなたの会社に「幹部になるための地図」は、今あるだろうか?
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執筆者プロフィール
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
静岡・東海エリアで100社以上の組織開発を支援。製造業・ホスピタリティを中心に、経営者の想いを言語化することから始める伴走型コンサルティングを展開。「幹部候補がいない」「現場が動かない」という相談に、現場の実態から向き合い続けている。





