あの人にしか分からない作業がある」 「ベテランが退職したら、このラインはどうなるのか」
東海地方の製造現場で、経営者や工場長からもっとも多く聞かれる悩みが、技術の属人化です。熟練の技は、長年の経験に裏打ちされた素晴らしい資産ですが、それが「個人の頭の中」に留まっている限り、組織としての成長や事業の継承にはリスクとなります。
この課題を解決するための強力なフレームワークが、日本発の知識創造モデルであるSECI(セキ)モデルです。今回は、現場の「人間味」を活かしながら、個人の知恵を組織の力に変えていく具体的なプロセスを解説します。
1. 現場に潜む「属人化」という時限爆弾
愛知や静岡の製造業を支えてきたのは、真面目で実直なモノづくりの精神です。しかし、そこには「背中を見て覚えろ」という伝統的な教育文化が根強く残っています。言葉にできない知識、すなわち「暗黙知(あんもくち)」が個人の経験の中に閉じ込められている状態です。
この状態を放置すると、以下のような問題が発生します。
現場のトラブル対応が特定の個人に集中し、その社員が疲弊する。
業務の標準化が進まず、品質にバラツキが生じる。
若手社員が「何を学べばいいか分からない」と、キャリアに不安を感じて離職する。
これらを打破するためには、個人の持つ「暗黙知」を、誰もが使える「形式知(けいしきち)」へと変換し、組織全体で循環させる仕組みが必要です。
2. SECIモデル:知を循環させる4つのステップ
SECIモデルは、以下の4つのプロセスを回すことで、組織の知識をスパイラルアップ(上昇)させていきます。
① 共同化(Socialization)
まずは、現場で「共に過ごす」ことから始まります。言葉で説明する前に、ベテランの作業を横で観察したり、一緒に手を動かしたりすることで、言葉にならない「感覚」や「コツ」を共有します。
② 表出化(Externalization)
共有した感覚を、言葉や図解、あるいは簡単なメモとして書き出します。ここがもっとも重要なプロセスです。「なぜここで音を確認するのか?」「なぜこの角度で工具を当てるのか?」という問いを立て、ベテランの「勘」を言語化していきます。
③ 連結化(Combination)
バラバラに書き出された知識を、既存のマニュアルや品質基準と組み合わせ、体系的な「仕組み」へと整理します。これにより、誰でも再現可能な新しい標準作業が生まれます。
④ 内面化(Internalization)
新しく作られた仕組みを、現場のメンバー全員が実践します。繰り返し行うことで、それが個人の新たなスキル(暗黙知)として血肉化されます。そして、そこからまた新しい気づきが生まれ、次の「共同化」へと繋がっていくのです。

3. 東海地方の組織文化に合わせた「導入のコツ」
この地域には、トヨタ自動車をはじめとする強固な製造業の文化があり、調和(和)を尊ぶ傾向があります。しかし、変化の激しい現代においては、単なる同質性を超えたアプローチが求められます。
遊び心と建設的な衝突を促す 規律を守ることは大切ですが、それだけでは新しいアイデアは生まれません。現場に「これ、おもしろいんじゃないか?」という遊び心を持ち込み、異なる意見がぶつかり合う「建設的な衝突」を歓迎する土壌が必要です。
管理ではなく「伴走」するリーダーシップ リーダーの役割は、部下を管理することではありません。現場から湧き上がる主体的な意志を拾い上げ、知恵が出やすくなるように横で支える「伴走者」であることが、SECIモデルを回す潤滑油となります。
対話を通じて「Will(意志)」を繋ぐ 個人の「やりたい」という意志を、組織の目標へと繋ぐのは「対話」です。普段関わらない部署や世代を超えて対話する場を持つことで、意外な一面や新しい知恵が発見されます。
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4. 自走する組織へ
創業から積み上げてきた「誠実なモノづくり」の精神は、私たちの最大の強みです。SECIモデルは、その素晴らしい伝統を捨てるためのものではありません。むしろ、伝統という名の「暗黙知」を現代の言葉に翻訳し、次代の挑戦を支える強力な「武器」に変えるための手法です。
「一生懸命やっているのに、なぜか苦しい」 もしそう感じているなら、それは努力の不足ではなく、知の循環が止まっているだけかもしれません。
現場に眠る個人の輝きを、組織の力へ。 Nuevo Labは、東海の企業が持つ最高の素材を活かしながら、組織のOS刷新し、自走する組織への進化ををサポートします。
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