あなたの店舗では、同じ問題が繰り返されていないだろうか。クレームへの対応が終わった翌月、また同じようなクレームが来る。会議で改善策を決めたのに、現場に浸透しない。店舗ごとにサービス品質にバラつきがある——。 問題が起きるたびに全力で対処する。その繰り返しに疲弊している店長・エリアマネージャーを、私たちはこの業界で何度も見てきた。 このコラムでは、「モグラ叩き状態」から抜け出すカギとなるレバレッジポイントという考え方と、それを現場で活用するための具体的なアプローチを書いていく。


【目次】


導入:「真面目に対処し続ける」ことの落とし穴

飲食・小売・介護・保育など、多くのスタッフを抱える現場を回っていると、店長室や休憩スペースで似たような会話を耳にする。

「クレームの件は対応したんですけど、また似たような問題が出てきて」 「エリアを回るたびに、店ごとにやり方が全然違うんですよね」 「本社から新しい施策が来るたびに、現場がついていけなくなってる

起こりがちな問題

こうした現場が抱える問題の多くは、表面の火消しをいくら丁寧にやっても、根本からは解決しない。なぜなら、問題を生み出している構造そのものに手を付けていないからだ。

「問題が起きたら即対応」は現場のプロとして当然の姿勢だ。しかし、緊急の課題に全力で当たり続けていると、重要だが今すぐ燃えていない「根本課題」に手をつける時間が永遠に取れなくなる。これが「モグラ叩き状態」の正体である。

この状態から抜け出すために必要なのが、レバレッジポイントという視点だ。

レバレッジの考え方


1. レバレッジポイントとは何か

レバレッジ(Leverage)とは「てこの原理」を意味する。小さな力で大きな物を動かすあの仕組みだ。

レバレッジポイントとは、"ここを変えれば複数の課題が連鎖的に解決される"という、組織の根本的なポイントのことだ。表面に現れている個別の課題ではなく、それらを同時に生み出している構造的な原因を指す。

たとえば、こんなケースを考えてほしい。

  • 店舗ごとにサービス品質がバラつく
  • エリアマネージャーが各店舗の状況を把握しきれていない
  • 店長の判断基準が属人化しており、店ごとに対応が異なる

これらは別々の問題に見えるが、よく観察すると**「店舗運営における優先すべきプロセスが可視化されていない」**という1つの根本が、すべてを生み出している場合がある。ここがレバレッジポイントだ。

このポイントに集中して手を打つことで、複数の店舗問題が一気に改善の方向へ動き始める。


2. なぜ現場はレバレッジポイントを見逃し続けるのか

「そんな根本的なポイントがあるなら、最初からそこを直せばいいのでは?」と思うかもしれない。しかし実際には、多くの現場でレバレッジポイントは気づかれないまま放置されている。理由は2つある。

2-1. 緊急の問題が「重要な問題」を追い出す

現場リーダーは、緊急度の高い問題から順番に対処する。それは正しい判断に見えるが、実は落とし穴がある。

「今日は◯◯のクレームがあった。明日はシフトが足りない。来週は本社の査察がある——」

この繰り返しの中では、重要だが今すぐ燃えていない「根本課題」は後回しにされ続ける。気づけば1年後も同じ問題を抱えている。これが「表面的課題解決思考」の限界だ。

2-2. 課題の「因果関係」が見えていない

個々の問題が独立した出来事として認識されている限り、それを引き起こしている共通の構造は見えてこない。現場の課題は複雑に絡み合っているが、そのつながりを可視化する機会と手法を、多くの組織は持っていない

結果として、何度対処しても表面をなでるだけで終わり、問題は形を変えて繰り返される。


3. 実践:レバレッジポイントを現場で活かす3つのステップ

では、どうすればレバレッジポイントを見つけ、活用できるのか。私たちが現場で実践している流れを紹介する。

3-1. 現場の課題を「列挙」し、因果関係でつなぐ

まず、現場で起きている課題を網羅的に書き出す。次に、「この問題はなぜ起きているか」「その原因はさらに何が生んでいるか」と掘り下げ、問題同士の因果関係を可視化する。

この作業によって初めて、「どこを変えれば最も多くの課題が動くか」というポイントが浮かび上がる。これを私たちは**「レバレッジマップ」**と呼んでいる。

3-2. レバレッジポイントを中心に「教育・支援・評価」を一体設計する

レバレッジポイントが特定できたら、そこを起点にして研修・OJT・マニュアル・評価指標を一体的に設計する。

多くの企業で「教育と現場が乖離している」という問題が起きるのは、学ぶ内容と現場で本当に重要なポイントがズレているからだ。レバレッジポイントを軸に置くことで、教育が現場の成果に直結する設計が可能になる。

3-3. モニタリングと評価で「定着」を図る

仕組みをつくっても、使われなければ意味がない。レバレッジマップを評価や定期ミーティングと連動させ、継続的に現場の状態を確認・調整する仕組みを持つことが、変化の定着につながる。

店長が自分の店舗の課題を可視化し、改善アクションを自分で選定・実行できるようになること。それがこの取り組みの最終的なゴールだ。


4. 経営者・現場リーダーが明日から変えられる一歩

ここまで読んでくれた経営者・現場リーダーのみなさんに、明日からすぐできる小さな一歩を3つ提案したい。

  1. 次の経営会議で「今、繰り返されている問題」を3つ書き出してみる その問題に共通する"根本"がないか、チームで問いかけてみてほしい。

  2. エリアマネージャーや店長に「一番根本的な問題は何だと思う?」と聞いてみる 現場の声の中に、すでにレバレッジポイントが隠れていることが多い。

  3. 研修の設計を「何を教えるか」ではなく「何を変えるために教えるか」から始める 目的をレバレッジポイントに紐付けることで、研修の現場への転移率が大きく変わる。

モグラ叩きから抜け出すことは、一夜にはできない。しかし最初の一手をどこに打つかで、変化のスピードは大きく変わる

Nuevo Labでは、現場の課題構造を可視化しレバレッジポイントを特定するワークショップ「Leverage Design Work Shop」を提供している。飲食・小売・介護をはじめとするホスピタリティ産業の経営者・店長・エリアマネージャーの方は、ぜひ一度ご相談いただきたい。

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執筆者プロフィール

塩田 昌弘 / 株式会社Nuevo Lab コンサルタント

大学卒業後、大手電気機器メーカーに就職するも1年で退職。その後、大手飲食チェーンに第二新卒で入社し、本社勤務を含めた18年間を現場で過ごす。人手不足・長時間労働・パワーハラスメントが当たり前の環境の中で「現場の痛み」を体感し、「現場のエネルギーこそが業績を変える」という確信を持つ。 元ハンバーガー大学プロフェッサー、元飲食チェーン副社長を経て、人財開発コンサルタントへ転身。社内大学構築・社内講師育成のスペシャリストとして、NVC・ティール組織などの理論を「現場のプロセスに落とし込む」独自のアプローチを開発。顧客から「博愛のジャックナイフ」と呼ばれるほど、深い愛情と厳しいフィードバックで育成するスタンスが多くの現場から支持を受けている。 Nuevo Labでは、飲食・小売・介護など多くのスタッフを抱える企業を対象に、**Leverage Design Work Shop**を通じた組織の構造変革と人材育成を支援している。