【要約リード】 1on1が機能しない最大の原因は「仕組み」でも「頻度」でもなく、上司が話しすぎていること。聴く場を「報告の場」に変えてしまう管理職の無意識のクセを解くことが、1on1改革の本丸だ。
「1on1、ちゃんとやってるんです。週に1回、30分。でも正直、何も変わっている気がしなくて」
静岡の製造業の工場長に言われた言葉だ。彼は誠実で、部下のことを本気で思っている。それなのに効果が出ない。なぜか。
話を聞いてみると、答えはすぐ見えた。
1on1の30分のうち、部下が話しているのは5分にも満たない。残りの25分は、工場長が「そういう時はな」「俺の経験で言うと」「それはこうすべきだ」と話し続けている。
悪意はゼロ。むしろ熱意の表れだ。でも、これは1on1ではなく、個別説教の時間になっている。
なぜ「上司が話しすぎる」のか
管理職が1on1で話しすぎる背景には、いくつかの構造的な理由がある。
ひとつは、**「沈黙が怖い」**こと。
部下が少し考え込んで黙ると、上司は「何か不快にさせたか」「テーマが悪かったか」と焦り、すぐ言葉を埋めようとする。でも、部下にとっての沈黙は「考えている時間」だ。その間を奪われると、浅い答えしか出てこない。
もうひとつは、**「アドバイスが仕事だと思っている」**こと。
管理職になった理由は、経験と知識があるからだ。だから1on1の場でも「知恵を提供すること」が自分の役割だと無意識に信じている。でもそれは、相手が求めた時だけ機能する。求められていない段階でのアドバイスは、部下の思考を止めるノイズになる。
東海の製造業で1on1を支援してきた体感として、上司が話す割合が7割を超えると、部下の本音は出てこなくなる。
「何を言っても最終的には上司の考えに着地する」と学習した部下は、やがて本音を話すことをやめる。1on1は形式だけ残り、魂が抜ける。
「聴く」とはどういうことか
1on1の目的は、部下の思考と感情を「引き出す」ことだ。与えることではなく、出てくる場をつくること。
ではどう聴くか。私がよく伝えるのは、**「問いかけて、待つ」**のシンプルな繰り返しだ。
たとえばこんな問いかけ。
「最近、仕事でいちばん頭を使っていることは何?」
「その問題、自分ではどう考えてる?」
「もし上手くいったとしたら、何が違うと思う?」
この後、上司がすべきことはひとつ。黙って待つこと。
最初は気まずい。部下も驚く。でも10秒待てば、何かが出てくる。その「何か」に、組織の本質的な課題が宿っていることが多い。
1on1が変わると、組織が変わる
ある静岡の部品メーカーで、管理職の1on1スタイルを変えるところから始めた支援がある。
最初の3ヶ月、管理職にお願いしたのはただひとつ。「1on1では自分が話す時間を20%以下に抑える」こと。
最初はぎこちなかった。「部下が何も言わなかったらどうする」という不安もあった。でも続けるうちに変化が起きた。
若手社員が「実は半年前からこういう問題を感じていて」と話し始めた。ベテランが「本当はこの工程を変えたいと思っていた」と打ち明けた。管理職は驚いた。「こんなに現場に課題感があるとは思わなかった」と。
1on1は変わっていない。変わったのは、上司が「空白」をつくるようになったことだけだ。
聴かれると、人は考える。考えると、言葉になる。言葉になると、動きたくなる。それが自走のメカニズムだ。
問いかけで終わりたい
あなたの組織の1on1では、誰がよく話しているだろうか。
そして、部下が「本当に話したいこと」を話せる時間が、月に何分あるだろうか。
1on1の効果を上げるために、何か新しいフレームワークを入れる前に、まずその問いに向き合ってみてほしい。
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執筆者プロフィール
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
静岡・東海エリアで100社以上の組織開発を支援。製造業・ホスピタリティの現場で「管理職が育たない」「指示待ちが抜けない」という悩みに伴走し続けている。1on1支援では、聴く文化の土台づくりから実際の対話の質改善まで、代表が直接関わる。





