この記事のサマリ
- 「人柄はいい管理職」が現場を動かせない会社が、東海の製造業に増えている
- 原因はスキル不足ではなく「嫌われることへの恐怖」だ
- 恐怖が生む3つの症状:フィードバックしない・決断を先延ばす・部下の顔色を読む
- 管理職がこうなるのは個人の問題ではなく、組織がそう育てているからだ
- 経営者がまず見るべきは、管理職の「行動」ではなく「何を恐れているか」だ
目次
「あの課長、人柄はいいんですけどね」
この言葉を、東海の製造業の経営者から何度聞いただろうか。
話を聞くと、パターンが一致している。
現場のメンバーには慕われている。飲み会の幹事も率先してやる。「あの人は話しやすい」と部下からの評判もいい。でも、なぜか指示が通らない。会議で決めたことが、現場に降りていかない。進捗を確認しても「まだ調整中で」という言葉が返ってくる。
経営者は悩む。「研修に行かせるべきか」「そもそも管理職に向いていないのか」と。
しかし問題の根はそこにない。
その管理職は、部下に嫌われることを恐れている。
嫌われ恐怖が生む3つの症状
症状① フィードバックをしない
部下の仕事に問題がある。でも指摘して関係が悪くなるのが怖い。だから「まあいいか」と流す。
一度流すと、次も流せてしまう。こうして現場の基準は少しずつ下がっていく。
本人は「部下を信頼している」と言う。経営者には「あいつは部下に優しすぎる」と見える。実態は「嫌われるのが怖くて、何も言えない」だ。
症状② 決断を先延ばす
工程の変更、担当の見直し、問題社員への対応。こういった「誰かが不満を持つ可能性がある判断」を、先延ばしにし続ける。
「もう少し様子を見てから」「上とも相談して」という言葉が口癖になる。
静岡の部品メーカーで、ラインの担当変更が必要な場面があった。課長は6ヶ月間判断を先延ばした。その間、現場のベテラン社員が不満を抱えたまま動かず、若手は「課長は何も決めない」と学習した。
結果、課長が決断した頃には、現場の信頼はもう戻らなかった。
症状③ 部下の顔色を読んで指示を変える
朝令暮改と言えば聞こえがいいが、実態は違う。
部下が少し不満そうな顔をすると、指示を撤回する。「やっぱりこっちでやって」と方針を変える。部下は学習する。「不満そうにすれば、課長は折れる」と。
こうなると、管理職は名ばかりになる。実質的に、部下が現場を仕切っている状態だ。経営者が「なぜ指示が通らないのか」と悩むのは、この構造が完成した後だ。
なぜ製造業の管理職はこうなるのか
「嫌われ恐怖」を持つ管理職を、個人の性格の問題として片付けてはいけない。
東海の製造業の現場を歩いてきた経験から言える。これは組織が作り出した問題だ。
理由は3つある。
1つ目は、その管理職自身が「嫌われることへの恐怖」を持つ上司の下で育ったからだ。上司がフィードバックしない職場で育てば、フィードバックが仕事だとは学ばない。先延ばしが許容される職場で育てば、決断することが管理職の役割だとは学ばない。
2つ目は、プレイヤーからマネージャーへの転換教育がないからだ。東海の中小製造業では、現場で優秀だった人間が「あいつにやらせてみよう」という理由で管理職になることが多い。しかし、現場で成果を出す能力と、人を動かす能力は別物だ。転換のための教育がないまま役割だけ変わると、「好かれることで現場をまとめる」という方法に頼り続ける。
3つ目は、経営者が「現場の空気」を壊したくないからだ。業績が悪化したときや現場が荒れたときだけ管理職に介入し、普段は「うまくやってくれ」と任せきりにする。管理職は「波風を立てないこと」が正解だと学習する。
経営者が本当に見るべきもの
管理職が部下に嫌われることを恐れているとき、経営者に求められるのは研修の手配でも配置転換でもない。
まず問うべきことがある。
その管理職は、あなたに対して本音を言えているか。
「社長に嫌われたくない」という恐怖が管理職にある会社では、管理職が部下に嫌われることを恐れるのは当然だ。組織の恐怖の構造は、上から順番に下へ流れる。
経営者が「率直に言ってくれ」と言っても、それだけでは変わらない。率直に言ったときに、経営者がどう反応したか。否定したか、黙ったか、それとも「言ってくれてよかった」と受け取ったか。その積み重ねが、管理職の「言っていいんだ」という感覚を作る。
管理職の行動を変えたいなら、まず経営者とその管理職の対話の質を変えることだ。
嫌われることへの恐怖は、安全な対話の経験を積むことでしか、解けない。
あなたの会社の管理職は今、何を恐れているだろうか。
そしてあなた自身は、その恐怖を作り出していないか。






