「もっと早く相談してくれればよかったのに。」

頼りにしていた社員から退職の意思を告げられ、そう感じたことはないでしょうか。

仕事は任せられる。周囲への気配りもできる。面談でも「大丈夫です」と答えていた。

だから、順調なのだと思っていた。

けれど、本人の中では、ずっと前から迷いや違和感が積み重なっていたのかもしれません。

退職の理由は、待遇、仕事内容、家庭の事情、キャリアの希望など、さまざまです。すべてを職場の対話で解決できるわけではありません。

それでも、退職の話が出て初めて本音を知ったときには、振り返りたいことがあります。

その人にとって、迷っている途中の気持ちを話せる場所はあったでしょうか。

「任せられる人」ほど、困っていることが見えにくい

例えば、ある社員に難しい案件を任せたとします。

本人は「分かりました」と引き受け、期限までに仕上げてくれる。上司から見れば、安心して任せられる存在です。

一方、その裏で、本人がほかの仕事を後回しにしたり、周囲に頼れず一人で調整したりしている可能性もあります。

成果が出ていると、その過程で生じている無理は見えにくくなります。

「あの人ならできる」と、次の仕事も集まる。

本人も、期待に応えたいからこそ、何とか形にする。

こうして、周囲の信頼と本人の負担が、同時に大きくなっていくことがあります。

ここで確かめたいのは、仕事が終わったかどうかだけではありません。

どのように終わらせたのか。その働き方を、この先も続けられるのか。

成果だけを見ていると、聞きそびれてしまう問いです。

本音は、話しても変わらないと感じたときに引っ込む

「何でも相談して」と伝えていても、相手が話せるとは限りません。

例えば、仕事の負担を相談したときに、

「今はみんな忙しいから」
「君にしか頼めないんだよ」
「もう少し効率よくできないかな」

と返されたら、どうでしょうか。

上司には、励ましたい、期待を伝えたいという気持ちがあるかもしれません。

ただ、相談した側には「状況は変わらない」「自分で何とかするしかない」と聞こえる可能性があります。

一度のやり取りで、本音が消えるわけではないでしょう。それでも、小さな相談が扱われない経験が重なると、話す意味を見いだしにくくなります。

やがて、相談は減る。上司には「落ち着いた」と見える。

けれど、本人はすでに、社内で状況を変えることから、社外で次の道を探すことへと気持ちを移しているかもしれません。

「大丈夫?」より、仕事の具体的な場面を聞く

では、何を聞けばよいのでしょうか。

「何か困っていることはある?」
「最近、大丈夫?」

こうした問いも大切です。ただ、相手がまだ考えを整理できていないときには、答えにくいことがあります。

まずは、日々の仕事を一緒に振り返るところから始めてみてください。

  • 最近、自分で抱えなくてもよいと思いながら、引き受けた仕事はある?
  • 今の成果を出し続けるうえで、無理をしている部分はある?
  • 本当は時間を使いたいのに、後回しになっていることは何?
  • 私の判断や関わり方で、進めにくくなっていることはある?

大切なのは、質問の数を増やすことではありません。

「本人がもっと頑張れば解決する」という前提をいったん置いて、仕事の配分や役割、上司との関係も含めて確かめることです。

答えを急がず、「まだうまく言えない」という状態も受け止める。その余地が、考えかけの気持ちを話す入口になります。

聞いた本音を、次の行動につなげる

話してもらった後の対応も欠かせません。

その場で解決できなくても、何を受け止め、何を変えられるのかを一緒に整理することはできます。

例えば、仕事量の相談なら、

「来週までに担当業務を一緒に整理する」
「この案件は、別のメンバーと分担できるか確認する」
「今すぐ人員は増やせないので、今月やらない仕事を決める」

と、具体的な対応に進めます。

希望のすべてに応じられない場合も、理由と検討の経過を伝える。そして、約束した日にもう一度話す。

「話したことが、職場でどう扱われたか」が、次も話そうと思えるかどうかに関わります。

管理職の聞く力と、職場を変えられる仕組みを一緒に考える

ここで、管理職だけに責任を負わせることも避けたいところです。

部下の本音を聞けても、業務を減らす権限がない。ほかの部署と調整する場がない。上司自身も仕事を抱えている。

その状態では、対話の技術を学んでも、対応できる範囲に限界があります。

だからこそ、管理職の聞く力を育てると同時に、相談された課題をどこで検討し、誰が判断するのかを整える必要があります。

1on1や管理職研修を、職場の役割分担や意思決定につなげて考える。

それが、対話を「話して終わり」にしないための土台になります。

退職の話が出る前に、確かめられること

社員が新しい道を選ぶこと自体は、止めるべきこととは限りません。

ただ、困っているときに話せなかった。話しても変わらないと思っていた。そうした状態には、職場として取り組める余地があります。

頼りにしている、あの人。

最近、成果の報告以外に、どんな話をしたでしょうか。

仕事を任せることと、負担を一人で抱えさせること。その境目を、一度確かめてみませんか。


管理職育成・職場の対話について、一緒に考えませんか

「1on1をしているのに、本音が見えない」
「一部の優秀な社員に仕事が集中している」

Nuevo Labでは、管理職の対話力を育てる研修と、役割・業務・職場の関わり方を見直す組織づくりを支援しています。

研修を実施すべきか、職場の仕組みから見直すべきか。課題が整理できていない段階から、一緒に考えます。