はじめに ── 今日から全員、企画者だ。

「お前には企画の才能がない。向いてないからやめろ」

29歳のとき、社長にそう吐き捨てられた。悔しくて、腹が立って、貪るように企画の本を読み漁った。

今ならわかる。あの言葉は、半分は正しかった。

当時、企画とは本当に「才能のある人間だけの仕事」だったからだ。


企画はずっと、一部の特権だった

電通や博報堂のコピーライター。テレビ局のプロデューサー。出版社の編集者。彼らは大量の予算と情報と人脈を武器に、「まさか」を世に放ち続けた。

普通のビジネスパーソンにとって、企画とは他人事だった。「自分は実務をやる人間だ」と。

その結果、何が起きたか。新しいことを生み出せない企業は、淀んだ水のように腐っていく。日本のデジタル赤字が年間6.7兆円を超えたのは、GoogleやAppleが「原液」を作り続ける一方で、日本がその原液を薄めて売ることしかできなかったからだ。「企画する人間」があまりにも少なすぎたからだ。


デザイン思考では、なぜ大きな新規事業が生まれないのか

2010年代、デザイン思考が日本企業を席巻した。ユーザーを観察し、課題を定義し、解決策を検証する。コンサルタントが持ち込み、研修費が数千万円を超えた企業も珍しくなかった。

結果はどうか。大きな新規事業は、生まれなかった。

なぜか。デザイン思考は根本的に「課題解決型」だからだ。痛いなら、薬を出す。ユーザーが困っているなら、その困りごとを取り除く。それは改善だ。企画ではない。

企画とは、課題を解決することではない。課題ごと、塗り変えることだ。

1973年、ヤマト運輸の小倉昌男はニューヨークでUPSの集配車を見た。当時の「改善」の発想なら「窓口の数を増やす」で終わっていた。小倉は問いを変えた。「なぜ荷物が取りに来てはいけないのか」。翌日届く、時間が指定できる——そのビジョンが、今日の年間50億個超の社会インフラを生んだ。

改善とは、痛みを取り除くことだ。企画とは、痛みの先の景色を上書きすることだ。

そしてAIは、デザイン思考のプロセスを丸ごと自動化した。共感、定義、分析、計画——かつて何週間もかけていた仕事が、数時間で終わる。しかし出てきたのは、誰かに似たサービス、どこかで見た企画、前年比102%の数字だった。

「なるほど」はAIが完璧にこなす。残るのは「まさか」だけだ。


企画とは、ボケである

お笑いにおいて、ボケとは何か。観客の「そうくるだろう」という期待をひっくり返す飛躍だ。ツッコミとは、その飛躍を「いや、そうじゃないだろ」と現実に着地させる納得の力だ。

良い企画には「なるほど(納得性)」と「まさか(意外性)」の両方が必要だ。そしてAIは最強のツッコミ役だ。 課題を整理し、ペルソナを作り、競合を分析し、確率の高い「次の一手」を高速で出す。しかしAIは、ボケができない。AIが生み出すのは常に最大公約数の正解だ。誰もが頷く正論であり、誰の心も踊らない。

だから人間が担うべきは、ボケ役だ。

水ブランド「LIQUID」を例に挙げよう。「水は清らかさを訴求し、透明ペットボトルで売る」という業界の常識を、パンクヘビメタル調のアルミ缶デザインと過激なコピーでひっくり返した。2024年、評価額14億ドルのユニコーン企業へ成長した。飽和した水マーケットで「なるほど×まさか」だけが勝敗を決めた。

「納得性だけなら、今やAIが出すソリューションと変わらない」——これが、私たちがデザイン思考の限界に直面して気づいたことだ。


ここで、少し紹介させてほしい

今回、私たちNuevo LabはPROTOCORE株式会社とパートナー契約を結んだ。

PROTOCOREは「AI×新規事業開発・事業創造」を専門とするチームだ。アイデア創出からUX設計、AIプロダクトの最短市場検証まで、「攻めの事業変革」を支援している。

私が彼らと話して感じたのは、思考の起点が同じだということだった。課題から始めない。ビジョンから始める。AIを脅威ではなく相棒として使う。そして何より、「企画する人間を増やしたい」という熱量が本物だった。

Nuevo Labが東海の現場で「組織のOS」を書き換える伴走をしてきたとするなら、PROTOCOREは「企画する力」そのものを設計するチームだ。組み合わさったとき、何が起きるか。想像するだけで少し笑える。それが企みの始まりだと、私は思っている。

👉 PROTOCORE株式会社


ビジョン起点で考えると、AIは「脅威」から「相棒」に変わる

「AIに仕事を奪われる」という恐怖は、課題解決型の思考を持っている人間の恐怖だ。課題解決をゴールにすると、AIはあなたより速く、安く、正確にこなす。しかし、ビジョンをゴールにした瞬間に変わる。「AI君、一緒にこのビジョンを叶えようよ」となる。

実際にこんなことがあった。壁紙の原材料を作る素材メーカーの現場担当者たちが「自分たちの仕事は言われた通りにやるだけです」と言っていた。30次受け以下の下請けで、自分たちが何を生み出しているか答えられなかった。

「最終的に、あなたたちは何を作っていますか?」と問い直した瞬間に、空気が変わった。「快適な空間を作っています」と彼らは答えた。そこから企画が始まった。火事になっても燃えない壁紙、嫌な匂いを吸着できる壁紙——自分たちの素材技術で実現できるものが山ほどあった。

ビジョンが先に立った瞬間に、歩兵が企画者に変わる。


わがままを言える人が、これからの時代に価値を持つ

ボケの源泉は何か。命令では出てこない。

ボケの源泉は、わがままだ。

AIが発達し、嫌な仕事が自動化されると、「あなたは何がしたいですか?」という問いだけが残る。共同体の中で欲望を押さえて育ってきた日本人は、わがままを言うことが苦手だ。しかし、みんなが満足してしまった世界では変化が止まる。

「自分が欲しいから作る」「自分がやりたいから続ける」——この渇きが、AIには絶対に出せない一次情報を生む。体験からしか生まれない主観が、意外性の源泉になる。

現場の違和感、どうしても諦められない衝動、誰にも相談できないほど「好き」なもの——そこに企み(たくらみ)の原石がある。


お父さんの背中を、子どもに見せられるか

ひとつ、問いかけたい。

子どもが「お仕事って楽しい?」と聞いたとき、どれだけの大人が胸を張って「楽しいぞ」と答えられるだろう。AIが出した資料を承認し、上から降ってきた課題をせっせと解決し、年度末に前年比102%の数字を出す。それが仕事だと、子どもに見せていないか。

「イキイキ」の正体は何か。企みだ。「こんな世界を作りたい」というビジョンを持ち、そこに向けて「まさか」を世に放つ企みを抱えている人間は、例外なく目が輝いている。

AIが「なるほど」を引き受けてくれる時代に、人間に残された仕事がある。

ボケ続けること。企み続けること。それだけだ。


この記事を書いた人

寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役

静岡・東海エリアを中心に、100社以上の組織開発を伴走支援。「組織OS」という概念を軸に、見えない組織の土台を診断・刷新するアプローチを専門とする。PROTOCORE株式会社とのパートナーシップにより、企画する人間を増やすための取り組みを東海から発信中。