「また辞退が出た」という電話が、春になると増える

3月になると、東海の中小製造業の経営者から決まって同じ相談が来る。

「内定を出したのに、他社に取られた」 「そもそも応募が来ない」 「親が反対して、辞退になった」

この問題を「景気のせい」「大手のせい」で片づけている限り、毎年同じ春を繰り返すことになる。

確かに構造的な不利はある。しかし採用に成功している中小企業は、同じ市場で戦っている。彼らが持っているのは特別な予算でも知名度でもない。発想の転換だ。


東海の採用市場で、何が起きているか

東海4県(愛知・岐阜・三重・静岡)の新卒採用市場は、全国でも屈指の難易度になっている。

世界的なモノづくり産業の集積と名古屋市への求心力が重なり、中小企業の求人倍率は高止まりが続く。10月中旬時点の内定率が92.9%に達するなど、選考の早期化も全国トップクラスだ。

さらに厄介なのが「二重の流出」構造だ。

愛知県は地元就職希望割合が68.6%と高い。しかし岐阜(16.0%)や三重(26.3%)からは名古屋圏への流出が著しく、名古屋圏全体からも首都圏への流出が続く。周辺県の中小企業は「愛知の大手」と「東京圏の企業」という二方向の競合に同時に直面している。

加えて、学生の意識も変わった。

物価高を背景に「実家・地元志向」が高まる一方で、初任給の引き上げに遅れをとる企業はスクリーニング段階で除外される。採用コストをかけて面接まで来てもらっても、待遇で弾かれる。


「オヤカク」を甘く見ると、内定辞退が増え続ける

もう一つ、特に製造業で深刻なのが「オヤカク(親への確認・承認)」の問題だ。

知名度が低い、製造業というイメージ、キャリアの見通しが見えない——こうした不安が親の反対につながり、内定辞退を引き起こす。学生本人はその企業に興味を持っていても、親が首を縦に振らない。

「本人を口説いても、家に帰ったら覆される」という経験をした採用担当者は少なくないはずだ。

親が求めているのは何か。子どもが「安定して働けるか」「成長できるか」という安心感だ。それが会社のWebサイトや会社案内に書かれていないなら、親が懸念するのは当然だと思う。


採用に成功している中小企業の「4つの共通戦略」

大手メガサプライヤーと正面から戦うことを避け、独自のポジションを取る企業が成果を出している。以下に4つの共通戦略を整理する。

① 「特定の軸」で大手を超える条件を打ち出す

給与総額や福利厚生の総量では大手に勝てない。だから「一つの軸で圧倒的に勝つ」戦略をとる。

フジイ金型は「6稼4勤」シフト制を導入し、年間休日を137日(実質140日超)に拡大した。生産性を維持しながら「休日が圧倒的に多い製造業」として他社との差別化に成功し、応募数を増やしている。

「休日数」「転勤なし」「若手への裁量」——どれか一軸で大手を超えることができれば、その軸に共感する学生が集まってくる。全方位で戦わなくていい。一点突破だ。

② 理念と組織文化をSNSで「見える化」する

側島製罐は、指示命令系統を排した「ティール組織」への刷新と自己申告型報酬を導入し、その文化をSNSで継続的に発信した。

旧来の製造業イメージを覆し、「こんな会社があるのか」と感じた学生が共感して応募してくる。知名度がなくても、文化の共感が母集団を作る。

重要なのは、「いい会社です」と言うことではなく、「うちの会社でこういうことが起きた」という具体的なエピソードを発信し続けることだ。

③ DX・生産性向上と採用を一体で設計する

テルミックは工場のIoT・DX化で高収益体質を築き、大卒初任給を25万5,000円へ3年連続で引き上げた。

ここで大事なのは順序だ。「採用のために初任給を上げた」のではなく、「生産性を上げた結果、待遇に還元できた」という構造になっている。学生と親の双方に「この会社は成長している」という信頼を与える。

DXや省力化は単なるコスト削減ではない。生み出した余剰を待遇改善へ再投資することで採用競争力を高める——この好循環を設計することが、採用を「毎年の消耗戦」から「仕組み」に変える。

④ 選考をスピード化し、「オヤカク」を能動的に設計する

ナビサイト依存からダイレクトリクルーティングや動画発信への転換、実務型インターンシップの実施、1〜2週間以内での内定出し——これらは今や「やっていて当然」の水準になっている。

その上で差がつくのが、「オヤカク対策の能動的な設計」だ。保護者向け工場見学会、会社の成り立ちや安定性を丁寧に説明する手紙、採用担当者から親への直接連絡——こうした取り組みを「やりすぎかな」と思うくらい丁寧にやる企業が、辞退率を下げている。


技術力を「ストーリー」にできているか

もう一つ、根本的な問題がある。

東海の中小製造業が持つ技術力は、本物だ。しかしその技術が「何を支えているか」が学生と親に伝わっていないケースがほとんどだ。

「精密部品を作っています」と言っても、ピンと来ない。しかし「私たちの部品が、あのクルマのエンジンに使われています」「このブレーキシステムの核心部分を担っています」と言えば、話が変わる。

会社の技術がどの完成品や社会インフラを支えているかを可視化すること。それが「うちは下請けだから」という諦めを、「うちだからこそできる仕事がある」という誇りに変える。

採用のメッセージは、誇りから来なければならない。


採用は「入口」ではなく「結果」だ

最後に一つだけ言わせてほしい。

採用に成功している企業を見ていると、共通して「採用のために会社を良くした」のではなく、「会社を良くしたから採用が成功した」という順番になっている。

休日を増やしたのは、採用のためではなく、今いる社員が長く働き続けられる環境を作るためだった。DXを進めたのは、採用のためではなく、現場の生産性を上げるためだった。文化を発信したのは、採用のためではなく、自分たちの誇りを言語化したかったからだった。

採用は、その会社の「組織の状態」が外に漏れ出たものだ。

採用が毎年うまくいかない会社は、採用の手法を変える前に、「今いる社員が、この会社を誇れているか」を問い直したほうがいいかもしれない。


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この記事を書いた人

寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役

静岡・東海エリアを中心に、100社以上の組織開発を伴走支援。採用に悩む中小製造業の「組織の土台」を整えることで、採用競争力を根本から変えるアプローチを専門とする。