二代目社長が最初にぶつかる壁
事業承継をした経営者と話すと、ほぼ全員が同じ場面を経験している。
「先代の時代からいる古参社員が、まったく動いてくれない」
新しいやり方を提案すると「それは当社らしくない」と言われる。DXの話をすれば「現場はそんな時間がない」と返ってくる。評価制度を変えようとすると「前のほうが公平だった」と言われる。
「変化への抵抗だ」「既得権益を守ろうとしているだけだ」——そう結論づけたくなる気持ちはわかる。
しかし、それは半分しか正しくない。
古参社員が反発する「本当の理由」
古参社員の多くは、会社のために長年働いてきた人たちだ。先代の社長と苦労を共にし、取引先との信頼を積み上げ、現場の技術を磨いてきた。
彼らにとって「会社のやり方」は単なるルールではない。自分たちが築いてきた誇りの結晶だ。
その誇りに、二代目社長の言葉が突き刺さる。
「これからは数字で管理する」「外部のコンサルに入ってもらう」「若手を抜擢してプロジェクトリーダーにする」
字義通りに受け取れば合理的な判断かもしれない。しかし古参社員には、こう届いている。
「お前たちのやってきたことは間違いだった」
反発は怠惰ではない。誇りを持った人間の、当然の反応だ。
やってはいけない3つの対応
① 「説得」しようとする
なぜこの方針が正しいかを論理で説明する。プレゼン資料を作る。データを示す。
古参社員は納得しない。なぜなら問題は「理解できていないこと」ではなく「認められていないこと」だから。論理で攻めるほど、防御は固くなる。
② 「若手で突破」しようとする
古参社員を飛び越えて、素直な若手だけを動かす。
短期的には動くように見える。しかし古参社員は静かにサボタージュを始める。「あの若いのに任せておけばいい」「どうせ失敗する」という空気が現場に広がり、若手は孤立する。
③ 「権限」で押し通そうとする
社長権限を使って強引に変える。
従うように見えて、心が離れる。必要最低限のことしかやらない「服従」の組織が完成する。これが最も回復に時間がかかる。
古参社員が動き始める「唯一の入口」
結論から言う。古参社員が動くのは、「自分の経験と誇りが、新しい方向性に必要とされている」と感じたときだけだ。
ある愛知の自動車部品メーカーで、二代目社長がDX推進のプロジェクトを立ち上げた。当初、30年の現場キャリアを持つ工場長は強く反発していた。
転機は、社長が工場長に言ったひとことだった。
「あなたが30年で培ってきた勘を、若い子たちに渡す仕組みを作りたい。そのためにデジタルを使わせてほしい」
工場長の目が変わった。「自分の知識を引き継がせる」という文脈に変わった瞬間、DXは「自分たちを否定するもの」から「自分たちの遺産を残すもの」に変わった。
具体的なアプローチ:承継前後でやるべきこと
承継直後にやること まず古参社員と1対1で話す時間を作る。アジェンダは「会社の方針の説明」ではない。「あなたのこれまでの話を聞かせてほしい」だ。
先代との思い出、苦しかった時期、誇りに思っていること。これを本気で聞く。聞かれた人間は、その社長に反発できなくなる。
変化を提案するとき 「なぜこれが必要か」より先に、「あなたたちのここまでの仕事があったからこそ」という文脈を必ず置く。
変化の提案は「否定」ではなく「継承の次の章」として提示する。これだけで古参社員の受け取り方が変わる。
プロジェクトに巻き込むとき 古参社員を「説得する相手」ではなく「設計に参加してもらう人」として位置づける。「あなたの経験がないと、このプロジェクトは成立しない」という役割を与える。
関与した人間は、そのプロジェクトを守る側に回る。
反発は「関係性の入口」になる
事業承継後の古参社員の反発は、消すものではない。
向き合うものだ。
その反発の奥には、会社への愛着と、先代への忠誠と、自分たちが積み上げてきたものへの誇りがある。その誇りを認めた上で、新しい方向性に巻き込む。それができた二代目社長だけが、古参社員を「最強のアライ」に変えることができる。
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この記事を書いた人
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
静岡・東海エリアを中心に、100社以上の組織開発を伴走支援。事業承継後の「古参社員との対話設計」を専門とし、二代目・三代目社長の組織変革を代表が直接伴走する。







