「昨日はこのやり方でいいと言われたのに、今日は違うと言われました。」

新人からそう相談されたとき、「人によってやり方は違うから、うまく合わせて」と返したことはないでしょうか。

先輩はそれぞれ、仕事をきちんと教えているつもりです。一方、新人には、何を基準に選べばよいのかが見えていない。誰に教わるかによって正解が変わるように感じ、仕事よりも相手の反応を気にしてしまうこともあります。

ここで確かめたいのは、教える言葉をすべて同じにすることではありません。

「必ずそろえること」と「状況に応じて変えてよいこと」を、教える側が説明できる状態になっているか。

その確認から、OJTのすれ違いを整理してみます。以下の場面や会話は、指導の違いを考えるための説明例です。特定の企業・顧客の事例ではありません。

違う指導の中には、違う前提が隠れている

例えば、資料を作成する新人に、一人の先輩は「まず完成させてから見せて」と伝え、別の先輩は「途中でも早く見せて」と伝えたとします。

前者は、確認済みの構成に沿って一度仕上げる練習をしてほしいのかもしれません。後者は、初めて取り組む内容だから方向を先に確かめたいのかもしれません。

ところが、その前提が説明されなければ、新人には指示が矛盾しているように見えます。

教え方の違いを見つけたときは、誰が正しいかを決める前に、次の点を並べてみてください。

  • 何をする仕事で、どの場面を想定していたか。
  • 新人がどこまで理解し、どこまで経験していると考えていたか。
  • 今回、何を優先してほしかったか。
  • どの状態になったら、確認を受けてほしかったか。

違いを比べると、「新人の習熟度を違って捉えていた」「通常時と急ぎの場面を、それぞれ説明していた」と気づくことがあります。もちろん、実際に基準がそろっていない場合もあります。

指導の内容を、3つに分けて考える

やり方を一つに統一すればよいとは限りません。教える内容を次の3つに分けると、そろえる範囲を話し合いやすくなります。

1.職場として、必ず守る基準

安全上の手順、品質の確認、顧客との約束、情報の扱いなど、職場のルールに基づいて守ることです。

ここが先輩ごとに違うなら、新人に判断を委ねるのではなく、責任者が正式な基準を確認する必要があります。口頭の説明と手順書が食い違っている場合も、そのままにせず、正しい内容と確認先を明らかにします。

2.条件によって、変わる進め方

初めて行う仕事か、すでに経験した仕事か。急ぎか、時間をかけて学ぶ場面か。相手や案件の条件はどうか。

「この場合は、こちらの進め方を選ぶ」と、条件と理由をセットで伝えます。例外を教えるときも、誰に確認すればよいかを添えてください。

3.個人が工夫しているやり方

メモの取り方、資料を考える順序、作業の段取りなど、基準を満たす範囲で選べる工夫です。

「私はこうしているけれど、ここは自分がやりやすい方法でよい」と伝えれば、新人も先輩の工夫として受け取れます。個人の好みを、職場全体の必須ルールとして教えないことが大切です。

新人に説明を求める前に、教える側で認識を合わせる

指導が食い違ったとき、新人を先輩同士の伝言役にしないようにします。

「誰にそう教わったの」「その人に聞いてきて」と往復させると、新人が指導者の間を調整することになってしまいます。

まずは上司やOJTの責任者が、具体的な一つの場面を取り上げ、教える側で確認します。

「今回は、新人が初めて作る資料だった。完成を待つより、構成の段階で一度確認する、という進め方にしよう。」

決まった内容は、理由を含めて新人にも戻します。

「説明がそろっていなかったね。この仕事では、まず見出しと箇条書きを見せてもらおう。内容が合っていると確認できてから、仕上げに進んでください。」

新人の前で一人の先輩を否定するより、職場として今後どう進めるかを伝える方が、次の行動を選びやすくなります。

分厚いマニュアルの前に、一つの仕事の「教え方メモ」をつくる

全業務を一度に標準化しようとすると、整理すること自体が大きな仕事になります。

まずは、新人がよく担当し、指導の食い違いが起きている仕事を一つ選んでみてください。次の項目を短いメモにまとめ、指導者同士で確認します。

確認すること 資料作成の仕事での記入例
仕事の目的 会議で、次に取り組む案を選べるようにする
必ず守る基準 数字の出所と対象期間を明記する
今回の到達目標 候補となる案を整理し、違いを説明できる
途中で見せるもの 見出しと、各項目で伝えたいことの箇条書き
変えてよいこと 基準を満たす範囲で、レイアウトは工夫してよい
迷ったときの確認先 担当トレーナー。不在の場合は上司に確認する

この表は説明例です。実際には、職場の正式な手順や、新人の経験に合わせて書き換えます。安全・品質などの正式な基準を、このメモだけで置き換えるものではありません。

メモの内容は、教える側だけで完結させず、新人が読んで判断できるかも確かめます。「自分たちには当たり前」の言葉が、まだ分からないこともあるためです。

新人には「どちらが正しいですか」から一歩進む聞き方を渡す

教える側で整えることとあわせて、新人が違いを確認するための言葉も用意します。

例えば、こう聞けるとどうでしょうか。

「昨日は、最後まで仕上げてから確認すると教わりました。今回は初めての内容なので、構成の段階で見ていただく方がよいですか。」

「この順番は必ず守る手順でしょうか。それとも、条件によって変えてよい部分でしょうか。」

ただし、うまく質問できることを、新人だけの責任にしてはいけません。教える側からも、「前に教わった内容と違って見えるところはある?」と問いかけます。

違いを伝えても責められず、その理由を一緒に整理してもらえる。その経験を重ねることが、相談しやすい関係をつくる一つの手がかりになります。

指導者の研修と、職場の運用をつなぐ

OJTトレーナー研修では、相手の理解度を確かめること、仕事の目的を伝えること、実践を見てフィードバックすることなどを練習できます。

一方、教える時間が取れない、正式な基準が古い、トレーナー不在時の確認先がないといったことは、教え方の練習とあわせて職場で整える必要があります。

研修で決めた指導の仕方を、配属先の上司にも共有する。新人が迷った場面を持ち寄り、メモを更新する時間をつくる。教える人が一人で抱えていないかを確認する。

新人が学びやすい職場は、教える人も確認し合える職場です。

次に「先輩によって言うことが違う」と相談されたら、まずは一つの仕事について、教える側で基準と前提を並べてみませんか。


新人と、教える側の両方を支えたい方へ

Nuevo Labでは、新人の経験や理解度を確かめながら、目的・手本・実践・確認をつなぐOJTトレーナー研修を設計しています。新人と上司・トレーナーが一緒に、期待することや必要な支援をすり合わせる合同研修もご相談いただけます。

愛知・静岡を中心に、対象者と育成の目的、職場で使う場面を伺い、内容をご提案します。

職場の関わり方を考える参考に

強みを起点にしたチームづくりの支援事例もご紹介しています。OJT研修の導入事例ではなく、相互理解と職場の対話に関する別の支援です。

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