「若手には、もっと自分から提案してほしい。」
そう感じたとき、直近で受け取った提案の、その後を思い出してみてください。
「いいね。検討しておくよ。」と答えた提案は、今どうなっているでしょうか。
上司は、本当に考えているのかもしれません。別の部門への確認が必要だったり、今の仕事との優先順位を比べていたりすることもあります。
一方、提案した本人には、その途中経過が見えていない。待っていればよいのか、追加で調べるのか、それとも今回は見送りなのか。次に何をすればよいか分からないままになることがあります。
若手の主体性を考えるときには、本人の提案する力とあわせて、職場が提案を受け取った後の返し方も確かめたいところです。
以下の場面や会話は、提案への対応を考えるための説明例です。特定の企業・顧客の事例ではありません。
採用するかどうかが決まるまで、提案者に何が見えているか
例えば、若手社員が「同じ情報を二つの表に入力しているので、入力先を一つにまとめたい」と提案したとします。
上司は、ほかの部門も使う帳票だから、その場では決められないと考えます。忙しい時期でもあり、「検討します」と返しました。
その後、何も伝えないまま次の仕事へ進むと、若手には上司の事情や判断の基準が分かりません。
提案の内容に問題があったのか。忙しくて後回しなのか。自分から関係者に聞く必要があるのか。本人なりに想像するしかなくなります。
ここで整えたいのは、すべての提案を採用することではありません。提案した人が、今の状態と次の動きを理解できるようにすることです。
そのために、上司から返しておきたいことを3つに分けてみます。
1.何をよくしたい提案だと受け止めたか
最初に、案のよしあしを判定する前に、提案が生まれた困りごとや目的を確かめます。
「二重に入力する手間を減らして、内容を確認する時間に使いたい、という提案だね。」
「どの場面で同じ情報を入力していて、誰が困っているのか、もう少し教えてもらえる?」
目的が分かれば、提案された方法をそのまま採用できなくても、別の進め方を一緒に考えられます。
「入力先を一つにする」という案に制約があっても、転記する項目を見直す、確認する順番を変えるなど、考える余地があるかもしれません。
逆に、何を改善したいのかが曖昧なら、そこを整理することが次の課題になります。「もっとよい案を出して」だけで終わらせず、何を明らかにすると考えやすくなるかを伝えます。
2.今、判断できることと、確認が必要なこと
提案を受けた上司にも、すぐに決められる範囲と、ほかの人に確認する必要がある範囲があります。
「入力の負担を減らすことには賛成。ただ、この表は別の部門も使っているので、どの項目が必要かを確認してから決めたい。」
このように、目的への理解と、方法を決めるための条件を分けて伝えます。
判断に必要なのは、例えば次のようなことです。
- 変更すると、誰の仕事や顧客対応に影響するか。
- 守るべき手順や、残す必要のある情報は何か。
- 今の仕事との優先順位をどう考えるか。
- 試すための時間と、確認する担当者を確保できるか。
- うまくいったかを、何で確かめるか。
提案者に追加の整理を頼むなら、今回の判断に必要な範囲を伝えます。小さな業務改善の相談に、いきなり詳細な企画書や全社の調整を求めると、提案すること自体が大きな仕事になってしまいます。
上司が確認することと、本人に考えてほしいことを分けることも大切です。
3.いつ返答し、次に誰が何をするか
その場で結論が出ないときも、次に返答する時点を決めておきます。
「利用している部門には私から確認する。次の定例で、試せるかどうかを返すね。それまでは、今の手順を続けてください。」
約束した時点までに判断できなかった場合は、その状態を伝えます。
「確認先からまだ返事が来ていないので、今日は結論を出せない。次の確認は私が行い、金曜までに状況を共有します。」
いつまでも待たせないよう、見送る場合も理由を返します。「今は難しい」という言葉の中に、何が含まれているのかを具体的にします。
| 状態 | 提案者に返すことの例 |
|---|---|
| 試すことができる | 試す範囲、担当者、通常業務との優先順位、振り返る時点 |
| 確認してから判断する | 未確認の点、確認する人、次に返答する時点 |
| 今回は見送る | 判断した理由。再検討する場合は、その条件 |
この表も説明例です。安全・品質・情報管理などの正式なルールに関わる変更は、職場の承認手順に従って判断します。
提案を見送るときにも、学びを残す
見送りの理由を伝えることは、次の提案で何を考えるとよいかを共有する機会にもなります。
例えば、「費用がかかるからだめ」とだけ返すより、「今回の対象範囲では、想定される効果に対して運用の負担が大きいため、今の案では進めない」と伝える方が、判断の観点を考えやすくなります。
ただし、理由を説明すれば必ず本人が納得するとは限りません。本人から見えている事情も聞き、意見が違うところを確かめます。
再提案を求めるなら、何を変えて考えてほしいのか、取り組む時間を確保できるのかも話し合います。採用しない理由を探し続けたり、結論のない修正を重ねさせたりしないようにしたいところです。
若手を研修に送り出した後、上司は何を受け取るか
若手社員研修では、役割を捉える、仕事の課題を見つける、周囲に質問する、提案をまとめるといったことを練習できます。
職場に戻った後は、その提案を誰が聞き、何を判断し、どこまで試せるかを話し合う場が必要です。
研修前に上司が期待を伝える。研修後に、本人が見つけた課題と提案を聞く。現場で取り組むことと、そのために必要な支援を確認する。そうした関わりも、育成の一部として考えます。
例えば、次のような問いから話してみてください。
- 職場でよくしたいと思ったのは、どの仕事のどんな場面か。
- 自分だけでは分からず、確認したいことは何か。
- 上司や周囲に、どんな協力を求めたいか。
- まず試すなら、どの範囲から始められそうか。
提案が出ない背景には、業務量、役割の理解、経験、関係性など、さまざまな事情があります。上司の返し方だけで説明できるものではありません。
それでも、次に「もっと提案してほしい」と感じたら、直近の提案に何を返したかを確かめてみませんか。
受け取った目的、判断に必要なこと、次に返す時点。その3つが、提案した人に見えているでしょうか。
若手の提案する力と、上司の関わり方を一緒に整えたい方へ
Nuevo Labの若手社員研修では、仕事の全体像や期待される役割を捉え、課題の発見、質問・傾聴、上司への提案を通じて、職場で試す行動を具体化します。
提案を受け取る側の関わり方や、現場で実践するための条件も含め、育成の目的と職場の課題からご相談いただけます。
静岡を拠点に、愛知をはじめ東海エリアを中心に全国対応。対象者の経験や期待役割に合わせて、研修内容をご提案します。
研修と実践をつなぐ、人材育成の参考に
株式会社アイシンの越境学習・人材育成の事例では、多様な人と学び合い、自ら課題を考える取り組みをご紹介しています。





