【要約リード】 1on1の失敗原因は「やり方」ではなく「上司が話しすぎること」にある。部下が口を開く前に、上司が答えを出してしまっている。
「1on1、やってます。毎週30分、欠かさず。でも……何も変わらないんですよね」
東海の製造業の管理職から、この相談を受けたのはもう何十回目だろう。
1on1は今や「組織開発の基本」として広がった。でも、導入している会社の多くで「効果が出ない」という声が止まらない。なぜか。
私が現場を見ていて気づいたことがある。効果が出ない1on1には、ほぼ共通した光景がある。
上司が、ずっと話している。
「聞いているつもり」が、実は封じている
ある製造業の課長と1on1のロールプレイをやったことがある。
部下役の私が「最近、職場の雰囲気がなんか重くて……」と言いかけた瞬間、課長はすかさずこう返した。
「わかるよ。それは○○さんの件があったからだよね。あれは難しかった。でも俺が間に入るから大丈夫。あと、来週の納期の件なんだけど──」
その場は終始、課長の声で埋まっていた。
本人は「部下の話を聞いた」と思っている。でも部下の言葉は、最初の一言で止まったままだ。
これが「上司が話しすぎる1on1」の典型的な姿だ。
なぜ上司は話しすぎてしまうのか
責めているわけじゃない。むしろ、これは善意から来ている。
製造業の管理職は、「問題を即座に解決する能力」を評価されて昇格してきた人が多い。現場では「答えを持っている人」が頼りにされる。
だから1on1でも同じことをしてしまう。部下が困っていると感じた瞬間に、答えを出す。助言をする。話し始める。
それ自体は悪いことじゃない。ただ、1on1に必要なのは「答えを出すこと」じゃなく、**「部下が自分の言葉で考える時間を作ること」**だ。
問題解決の速さと、対話の深さは、別のスキルだ。
東海の製造業現場で「1on1が機能していない」と感じるとき、その根っこはここにある。
「問い」が変わると、1on1が変わる
1on1を変えるために、難しいことはいらない。まず試してほしいのはこれだけだ。
「最近どう?」と聞いて、黙って待つ。
3秒、5秒、10秒。沈黙は埋めなくていい。
人は沈黙が続くと、自分で考え始める。管理職が「答えを出す人」から「問いを置く人」に変わる瞬間が、ここにある。
次に、こんな問いかけを試してほしい。
- 「最近、職場でどんな瞬間にやりがいを感じた?」
- 「今、一番頭を使っている仕事って何?」
- 「もし制限がなかったら、何を変えてみたい?」
これらは「答え」を求める問いじゃない。「内側を掘り起こす」問いだ。
成人発達理論(ロバート・キーガンの研究)でも明らかになっているが、人は「自分で答えを言語化した経験」によって成長する。誰かに答えを与えられても、深くは変わらない。
1on1の目的は、部下に答えを渡すことじゃなく、部下が自分の答えを見つける「場」を作ることだ。
心理的安全性は「話せる場」ではなく「止まれる場」
1on1を機能させるために、もう一つ大事なことがある。
「この人に話しても安全だ」という感覚だ。
製造業の現場では、「弱みを見せると仕事ができないと思われる」という空気が根強く残っている会社が多い。そういう文化の中で、1on1の時間だけ突然「なんでも話してください」と言われても、部下は戸惑う。
心理的安全性は、1on1の場だけで作るものじゃない。普段の会議での上司の反応、ミスが起きたときの空気、誰かが意見を言ったときの周囲の目。そういう「日常の積み重ね」の中で育つ。
逆に言えば、1on1がうまくいかないなら、それは日常の組織の空気を写している鏡かもしれない。
まとめ
1on1の「やり方」を変える前に、「誰のための時間か」を問い直してほしい。
上司が話す場じゃない。部下が、自分の言葉で考える場だ。
東海の製造業現場で、1on1が変わった瞬間を何度も見てきた。それはいつも、上司が「黙って待てるようになった」タイミングだった。
あなたの会社の1on1で、沈黙はどのくらい続いているだろうか。
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執筆者プロフィール
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
静岡・東海エリアで100社以上の組織開発を支援。製造業・ホスピタリティを中心に、管理職の1on1導入から組織文化の変革まで、代表が直接伴走する支援を行っている。「研修して終わり」ではなく、現場の行動が変わるまで関与するスタイルで、指示待ちから自走型組織への転換を支える。







