【要約リード】 「採用しても辞める」が止まらない会社は、採用の問題ではなく「組織のOS」の問題だ。人が定着する組織は、スキルではなく「ここにいていい」という感覚を先につくっている。
「また辞めました」
静岡の製造業の社長から、そのひと言で始まる相談を受けたのは、去年の冬だった。
入社3ヶ月の若手が退職届を出した。その前の月にも一人辞めていた。求人を出すたびに採用費がかさみ、現場のベテランが疲弊していく。「いったい何がいけないんでしょうか」。社長の顔には、怒りより先に、静かな疲労感があった。
こういう会社には、共通した構造がある。
採用の問題ではない。組織のOSの問題だ。
「採用しても定着しない」会社が繰り返す、3つの構造
① 「即戦力」に依存した受け入れ体制
東海の製造業でよく見る光景がある。入社初日、上司がひと通り説明を終えると「じゃあ、あとはOJTで覚えてもらえばいいから」と現場に投げる。
仕事を覚えることはできる。だが、「この会社で自分はどこに向かっているのか」がわからないまま日々が過ぎていく。スキルより先に、文脈が断絶している。
若い人材が求めているのは、手取り足取りの指導ではない。「なぜこの仕事をするのか」「自分はここで何者になれるのか」という問いへの、小さな答えだ。
② ベテランが「言わなくてもわかるだろう」と思っている
現場のベテランは、長年その会社の暗黙のルールで動いてきた人たちだ。報連相のタイミング、ミスの報告の仕方、上司への関わり方。それが「当然のこと」として染み込んでいる。
でも入社したばかりの若手には、その暗黙のルールが見えない。
「こんな簡単なこともわからないのか」と思われている気がして、萎縮する。質問できなくなる。そしてある日、誰にも言わずに辞表を出す。
見えないルールが多い組織ほど、定着率が低い。これは統計ではなく、私が現場で繰り返し見てきた事実だ。
③ 経営者が「離職を採用コストで解決しようとしている」
これが最も根本的な問題だ。
採用費を上げれば、応募は増える。条件を良くすれば、入社はする。でも同じ組織に入ってくれば、同じ理由で辞めていく。
採用はあくまでも「人を迎える入口」だ。定着させるのは、入口の先にある「組織の空気」だ。その空気を変えずに、入口だけを広げても、漏れ続けるバケツに水を足しているだけになる。
定着する組織がやっている「たった一つの転換」
私が関わってきた中で、離職が止まった会社には共通した転換点がある。
それは「仕事を教えること」より先に、「ここにいていい」という感覚をつくることだ。
難しいことではない。具体的には、こういうことだ。
入社後の最初の1週間、上司が「うちの会社がなぜこの仕事をしているか」を話す時間を意図的につくる。製品の背景でも、創業者の想いでも、現場で起きている小さな誇りでもいい。「あなたが来てくれてよかった」という言葉を、評価の文脈ではなく、人として伝える。
それだけで、若手の「ここで働いてみようかな」という感覚が変わる。
成人発達理論の言葉を借りれば、人は「所属の安心感」なしには成長できない。スキルを積み上げる前に、まず「居場所」が必要なのだ。
組織のOSを変えることが、定着への本道
離職が止まらない会社が抱えているのは、採用力の問題でも、条件の問題でもない。
見えないところで動いている「組織のOS」が、新しい人材を受け入れる構造になっていないことが問題だ。
・ベテランの暗黙知が言語化されていない ・「なぜここで働くのか」という文脈が共有されていない ・入社した人が「何かあったら言える」関係性がない
これらは一夜にして変わるものではない。でも、変えられないものでもない。
私が東海の製造業で伴走してきた会社の中には、「採用しても辞める」の悪循環を抜け出し、「うちで働きたい」と口コミで人が集まるようになったところもある。
変わったのは、採用の予算でも、給与水準でもなかった。経営者が「自分の言葉で語る」ことを始め、現場のマネジャーが「聞く側」に回ることを学んだ、それだけだった。
あなたの会社で、最後に辞めていった人は、何が見えなかったのだろうか。
その問いを、ぜひ一度、静かに考えてみてほしい。
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執筆者プロフィール
寺澤 のぞみ / 株式会社Nuevo Lab 代表取締役
静岡・東海エリアで100社以上の組織開発を支援。製造業・ホスピタリティを中心に、経営者の伴走と現場の自走化を同時に進める「組織OS刷新」を専門とする。採用定着の課題に悩む中小企業の経営者からの相談が後を絶たない。







